貨幣の複雑性―生成と崩壊の理論

今日の経済理論は「社会はただ一度だけ行動を起こす」という仮定の下に構築されている。このように経済学における時間は単純な形式をとるが、著者は刻々と生起する経済のダイナミズムをこのような時間の枠組みで分析することの限界を示し、複雑系の新しい手法と、開放系・知識・選択権・市場性・多様性・創発・自壊といった新たな概念を導入、方法と用語の両面にわたって経済理論の革新を試みる。貨幣の交換媒介機能に焦点を当て、貨幣が自生と崩壊を繰り返すメカニズムをコンピュータ・シミュレーションにより分析、貨幣現象の複雑な振舞いを明らかにする、創見に満ちた画期的業績。

安冨 歩

やすとみ あゆみ

東京大学東洋文化研究所教授

東京大学東洋文化研究所教授。1963年生まれ。京都大学経済学部卒業後、株式会社住友銀行勤務。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。京都大学人文科学研究所助手、名古屋大学情報文化学部助教授、東京大学大学院総合文化研究科・情報学環助教授を経て、現職。著書に『生きるための論語』(ちくま新書)、『超訳 論語』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『生きる技法』(青灯社)、『原発危機と「東大話法」』『幻影からの脱出』(明石書店)、『もう「東大話法」にはだまされない』(講談社)、『経済学の船出』(NTT出版)、『生きるための経済学』(NHKブックス)、『複雑さを生きる』(岩波書店)などがある。『「満洲国」の金融』(創文社)で第40回日経・経済図書文化賞受賞。