レコードへの道 その7 それでもなぜレコードを聴くのか?

ここまで詳しく説明したように、いい音で音楽を聴くには、

  1. 電源を直流にする
  2. その上で、複雑な機構のない簡素なアンプを使う
  3. CDプレーヤを使わず、デジタル機器に読み込む
  4. デジタルの音源の解像度をできるだけ高くする
  5. 純セレブ・スピーカを使う

といった工夫が重要であり、これらをやれば、十分にいい音を楽しむことができるはずである。

実際、私はここまでやったところで、音楽の質を改善する努力はやめて、かつ、本当はCDから圧縮なしで読み込んだり、あるいは非圧縮の音源を聴くべきところを、本当に音質を気にすべき場合のほかは、面倒臭いので iTunes などで、圧縮された音源を聴いて、それで結構、楽しんでいた。

しかし、2020年の年末に、運命の時がやってきたのである。それは、私が、2019年の秋に突然、ヴァイオリンを始めたことと関係している。ここで、なぜヴァイオリンをやるのか、どうやっているのか、などという話に脱線すると、いつまで経ってもレコードにたどり着かなくなるので、それはまた今度、お話ししたい。

私が2020年の秋から取り組んでいたのが、バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ1」の冒頭の Adagio という曲であった。これは、だいたい、音大を受験するつもりの中高生あたりが必死で練習するような曲で、ヴァイオリンを始めて1年の初心者がやるような曲ではない。ではないのだが、私はふと、この曲の冒頭の4重和音を試しに弾いてみた。すると、なにか途轍もない世界が見えたのである。喩えれば、巨大な神殿に足を一歩踏み入れたような感覚であった。神殿全体は演奏すると一時間くらいかかるような膨大な組曲であり、しかも中にはプロでも相当練習しないと人前では弾けません、というようなものもあるのだが、冒頭の5分くらいの一曲だけは、なんとしても、たとえどんなにヘタクソでも、自分で弾いて中身を体で理解したい、と切望したのである。

とはいえ一人でやってみると、めちゃくちゃになる上に、どこがどうおかしいのかすらわからないので、修正のしようがない。それで高校の同級生で、読売日本交響楽団のヴァイオリニストである杉本真弓さんに、ネットで時々、非同期の指導を受けることにした。その様子は、以下でご覧いただきたい。

曲を演奏するには、その流れと構造を頭の中に入れとておかないと難しいのだが、楽譜など読めはしないので、iTunes でいろんなヴァイオリニストの演奏を何十個も集めて、聴きまくったのであるが、そのなかでシゲティという偉大なヴァイオリニストの演奏に特に心惹かれたので、それを主として参考にすることにした。

そうしたら、あるとき、ネット上で、シゲティの無伴奏のレコードの復刻版が、3枚組で売られているのをみたのである。その瞬間に、このレコードを聞いてみたい、となぜか痛切に思ったのである。ただ、もともと一万数千円もする上に、すでに品切れになっており、中古市場では数万円というような価格で売られていた。そこで、ヤフオクで、同じレコードの古いのはないのかな、と思ったら、一枚千円くらいで売っていた。もちろん、レコードというやつは、同じ原盤でも、プレスの具合や使っている素材、厚さなどによって、また何十年も前のものであるから、保存状態によって全く違うので、別にそれで得するわけではないのだが、そのくらいで売ってるならなんとか聴いてみたい、と思ったのである。これがレコード沼の入り口であった。

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