レコードへの道 その3: 純セレブ・スピーカーの誕生

さて、レコードへの道と言いながら、レコードの話が全然出てこないのは、「レコードって音がいいらしいからプレーヤー買ってみよう」というような考えを起こして欲しくないからである。これまでの議論をまとめておくと、大前提は、

  • 音がいいかどうか聞き分けられないなら、音をよくする必要がない

ということである。

不幸にもあなたが、音が悪いと気持ちが悪く、音がいいと気持ちいがいいという人物であるなら、

  • ・データ転送の確認をしないCDプレーヤーは使わず、DVDプレーヤー・パソコン・スマホ・タブレットなど、データ転送の確認をする機器を使う
  • ・CDを読み込んだり、データをダウンロードする場合には、できるだけ容量の多い方法をケチらず使う
  • ・電源を直流の電池にして、直流で動くシンプルなアンプを使う
  • ・スピーカーは純セレブ・スピーカーを使う

といったことをすべきだ、ということである。レコード云々は、これらのことをやってからの話である。

さて、次は、純セレブスピーカーについて説明せねばなるまい。 「純セレブ・スピーカ」とは、スピーカー・ユニットを,ダンボールなど紙のエンクロージャに搭載し、その中に紙を詰め込んだスピーカーのことである。それは安価で簡単にできて上質の音を再生する。「そんなバカな」と思われるかも しれぬが、オーディオ愛好家のための専門誌である『ラジオ技術』誌上にも、新忠篤氏の製作された純セレブ・スピーカーである「焼かつおスピーカ」に関する記事や巳波弘幹氏による「純セレブ・スピーカ」の検証記事が複数回掲載された。この方々は、業界で畏怖されているスピーカー通である。

新氏は

私は今秋に80歳になるが、今回のボール紙箱入りスピーカの音は、自作装置で初めてSPレコードを電気再生したときの感激を思い起こした

とまで書いておられる(2019年7月号 p.118~120)。 『ラジオ技術』の2020年12月号には、開発者の私と片岡祐介氏との連名で「逆転の発想から生まれた純セレブ・スピーカとは」という論文を掲載した。

 純セレブスピーカーが誕生したきっかけは、2018年4月25日に,安冨がスバルのインプレッサの新車を購 入したことにあった。試乗したときにスピーカーを試聴して、ちょっと何かが足りない気がしたので、オプションのブランド物のスピーカに交換してもらうことにしていたのだが、クルマの納品が済んだときにディーラーの職員が「元 のスピーカは処分しておきますね」といったのである。「それはもったいない」と考えて、とりあえず引き取ったのだが、私にはそれまでスピーカーを自作した経験がなかった。

そこで,音楽家であり音響機器に詳しい片岡に活用してもらおうと「これ要らない?」とメールしたのだが、「いまは特に要りません」とのことだった。やむを得ず自作することにして、5月1日に「これ。アンプにケーブルで繋ぐと音出るの ?」と質問した。安冨の知識はその程度だったのである。それに対して片岡が「プラス・マイナスを揃えてつないでください。ダンボール箱に穴を開けてユニットを差し込むと、楽に作れますよ」と助言してくれた。実は片岡も、その時点ではダンボール箱を使ってスピーカを作ったことはなかったのだが、打楽器奏者としての経験から、ダンボールの音響特性のよさは知っていたので、それで大丈夫だろう、と考えたのである。とはいえ、ダンボール箱が空洞のままだと、余分な箱鳴りが発生して「雑味のある音」になりがちだと推測し、「箱の中にクシャクシャにした紙を入れてください。できるだけいろいろな種類の紙を混ぜてください」と提案した。特定の高さの音だけが強調される現象を防ぐためにそう助言したのである。

私は、その日のうちに、宅急便のダンボールを購入し、これを実行して音を鳴らし、驚愕した。想像を越える良い音がしたからである。安冨はタンノイの廉価版のスピーカーをプロ用のアンプとミキサーにヴィンテージ・ケーブルで繋いで鳴らすという、少し凝ったことをしていたのだが、それよりも遥かに良い音がした。これが歴史的な「純セレブ・スピーカー第一号機」である。「初代」と命名している。

記念すべき「初代」純セレブ・スピーカー

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