ヴァイオリンやってる人には有名で、それ以外の人はあまり知らない作曲家の一群がいて、大抵は本人が名手で、超絶技巧の曲を書いている。ハインリヒ・イグナツ・フランツ・フォン・ビーバー(Heinrich Ignaz Franz von Biber、1644年ー 1704年)という、オーストリアの作曲家は、その元祖みたいな人で、『ロザリオのソナタ』のなかのパッサカリアは、今でも重要なレパートリーとして生きている。
私は、ケルン在住の古楽器奏者の阿部千春さんを、古民家ギャラリー かぐや にご紹介してライブをやってもらってそのときにパッサカリア聴いて、いたく感動した。いつかは、自分で演奏したいとおもうのだが、なかなか大変な曲である。
自分では弾けないので、ならば、と、この曲を、参考にして、ドボルジャークの主題に基づいてヴォオラのためのパッサカリア(シャコンヌ)『韃靼海峡を渡る』を作曲して、増永雄記さんというプロに演奏してもらったことがある。演奏が素晴らしくて、感激であった。
で、この『ロザリオのソナタ』は、16曲もある大曲で、しかも、そのほとんどは、普通の調律ではなく、それぞれの曲にあわせて、独特の調律が指定されている、ということで、弾くのが大変である。特に、第11曲などは、下から2番目の弦より、3番目の方が低い、という謎の設定になっていて、頭がこんがらがるようになっている。
そのせいかどうか知らないが、レコードはそれほどないようで、「ロザリオのソナタ」全曲聞きたいなぁ、と思ったが、一種類しかなくて、かつ、とても高い。
一番よく見るのは、以下で、このレコード屋さんでは、22000円である。なぜそんなに高いのかというと、ひとつは、ドイツのプレスだからである。
マイアーらのハインリヒ・ビーバー/「ロザリオのソナタ」全集 独HM 1C1571999911/21/31 STEREO デジタル 3LP
ハインリヒ・ビーバー/「ロザリオのソナタ」(全16曲) フランツヨゼフ・マイアー(バロック・ヴァイオリン) フランツ・レーンドルファー(バロック・オルガン) マックス・エンゲル(バロック・チェロ) コンラッド・ユングヘーネル(テオルボ)
プレス国 ドイツ
レーベル ゴールドレーベル
1982年~83年の録音です。優秀録音。ボックス入り。コレギウム・アウレウムのコンサートマスターとして活躍したマイアーの代表作です。価格:22,000円(税込)
しかし、日本の盤も、ドイツメタル原盤使用とか書いてあって、品質は変わらないようで、ヤフオクでも、確か万を超えていた。しばらく待っていたが、それ以外出てこないので、やむを得ず買おうか、と思ったのが、よく見ると「デジタル録音」と書いてある。
私は、デジタル録音のものを、アナログレコードで聴く意味はないと思うので、買うのをやめた。それに、かつて、まとめて落札というので、何十枚かのレコードを安く買ったなかに、デジタル録音が入っていて、聴いてみたら音がものすごく悪かった。そのレコードの一つは、志鳥永八郎という有名な音楽評論家が解説を書いていて、録音を褒めているので、当時の耳にはいい音に聴こえたのだと思うが、今の耳には耐え難い、妙に鋭い変な音がする。音楽家の片岡祐介さんの意見では、当時のデジタル記号列からアナログ音に変換する装置の性能が悪かったのではないか、ということである。そういうわけで、原則買わないとこにしている上に、こんなに高いのでは手が出せない。
最近になって、このレコードが、間違ってCDの分類で出ているのを発見した。値段もCD相当に設定されていた。「みんな気がつくなよ!」と祈る気持ちで入札し、無事に落札したので聞いてみたのだが、残念ながら、耐え難い、妙に鋭い変な音がするのである。もったいないから二回くらい全曲聴いてみたが、音量を小さくしておけばなんとかなる、という感じであった。演奏は素晴らしいと思うので、誠に残念なことである。
「1982年~83年の録音です。優秀録音。」とレコード屋さんのページには出ているし、ヤフオクにも必ずそういうことが書いてあるが、それは、残念ながら、事実に反する。実際には聞かずに書いているのか、それもと志鳥永八郎と同じように、いい音に聴こえているのか、のどちらかである。ひょっとすると、純セレブスピーカーならぬ、ダメダメ・インチキ・バスレフ・スピーカーだと、今も相対的にいい音に聴こえているのかもしれない。いずれにせよ、不気味な現象である。