レコードへの道 20220513

昔々、1976年5月18日、カーネギー・ホールでものすごいコンサートが行われた。その記録のレコードである。曲目は以下。

ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番
チャイコフスキー/ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」から第1楽章
ラフマニノフ/チェロ・ソナタ ト短調から第3楽章
シューマン/連作歌曲「詩人の恋」
バッハ/2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調
チャイコフスキー/無伴奏合唱曲「われらが父」
ヘンデル/「メサイア」よりハレルヤ・コーラス

なんだこりゃ、という感じだが、出演者がとんでもない。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
ウラディミール・ホロヴィッツ(ピアノ)
ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)
アイザック・スターン(ヴァイオリン)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)

レナード・バーンスタイン(指揮)
ニューヨーク・フィルハーモニック
オラトリオ・ソサエティ

なぜ、こんなメンバーがそろったのかと思ったら、裏面の解説に書いてあった。田代智之というCBSソニーの人が、この現場にいて、その記録を書いている。ここには、たまたまニューヨークに行って奇跡的にチケットを手にしたと書いてあるが、レコードがCBSから出ているのであるから、ホントかな、という気はする。

驚いたことに、あのカーネギー・ホールですら、老朽化で取り壊されそうになり、ヴァイオリニスト、アイザック・スターンがそれを立て直したというのである。その資金的補強のためのチャリティーコンサートで、スターンが駆けずり回って、この信じがたいメンバーが揃ったのである。

チケットは一枚千ドル!今でも高額だが、当時の感じだと、一枚百万円くらいではなかろうか。しかし、それでも全て売り切れるのは、当然という奇跡の豪華メンバーである。

レコードは、その雰囲気を伝えるために、当日のプログラム、全員で歌っている写真のポスター、それっぽくするための新聞のようなもの、が同封された豪華版で箱も頑丈でゴツい。しかしその割に、レコード版が普通で、それはないだろうと思った。もっと分厚い立派なのにして欲しかった。

で、聞いてみてどうか、というと、そもそもプログラムに一貫性がない。オーケストラ演奏の合間に、ピアノ三重奏や、ドイツ・リートが挟まるのは、流石に違和感がある。極め付けは最後の「ハレルヤ」で、これはピアニスト、ヴァイオリニスト、チェリスト、指揮者が、バリトン歌手と並んで、歌っているのである。

チャリティーコンサートなのだから、その祝祭性が問題であって、演奏の質を云々すべきではないのだろうが、ホロヴィッツが、43年ぶりにトリオをやり、53年ぶりにリートの伴奏をしたらしいので、それを聴くだけで希少価値があるというものだ。

ディースカウとホロヴィッツがここで演奏したのが、『詩人の恋』だった、というのを知れば、シューマンが泣いて喜ぶだろう。メニューインとスターンの豪華な二つのヴァイオリンのための協奏曲は、チャリティ抜きで、確かに聞きものだと思う。

が、結構なお金を払ってこのレコードを当時買った人は、ちょっとがっかりしたんではなかろうか。千ドル払って現場にいた人だけが、大喜びして、末代まで語り継ぐ特権を得たわけである。

1件のコメント

  1. 初めて投稿いたします。先日 安富あゆみさんがドボルザークの新世界を言葉で表現する動画を 自分でも意外なくらい楽しんで2回繰り返して見ました。少し前に紹介のあったメンデルスゾーンの曲を聴くようにもなりました。このレコード 演者を見て私は胃もたれを起こしそうです。レコードジャケットは六花亭のマルセイバターサンドのラベルに似ていますね。

コメントを残す