レコードへの道 20220527

これも、ものすごく思い入れのあるレコードである。高校生の私は、ロンドンからの出ていた千円のモノラル復刻盤レコードのシリーズをよく買っていた。千円と安い上に、往年の名指揮者の名盤がたくさん入っていて、音は悪いけど、面白かった。

それで、マーラーという作曲家のレコードを買ってみようとおもって、ワルターのこれを見つけたのである。宇野功芳の思い入れたっぷりの解説がついていた。それによると、ワルターにはステレオ盤もあるけれど、それよりこちらの方が良く、また、女性歌手のフェリアーの名演奏とされるけれど、男性歌手のパツァークが素晴らしいんだ、と書いてあった。特に第一楽章が、青春期の自分そのものだ、と。

で、聴いてみて、とても交響曲とは呼べない、歌曲集のような形式に戸惑いつつも、確かに第一楽章で衝撃を受けた。そして、 Dunkel ist das Leben, ist der Tod! 生は暗く、死もまた暗い というフレーズと、その直後の断ち切るような終わりに痺れてしまった。親がいない夜などは、ウィスキーを盗み飲みしつつ、この最悪の歌詞に酔った。声量に乏しいパツァークが必死に張り上げるその悲鳴のような声が、確かに音楽に合っている。それにあわせて私も、生は暗く、死もまた暗い!と一緒に歌っていた。

そして長大な第六楽章の大地のため息のような不思議な響きと、フェリアーのなんとも言えない妖精のような声。最後に Ewig… ewig… 永遠に、永遠に、 と繰り返すフェリアーの発音がこれまた奇妙で、ニー ニー と聞こえるのだが、これも何か動物の遠吠えのようで、切ない。

何より、ワルターの指揮ぶり。私はワルターが大好きで、ドイツモノはとりあえずワルターを聴いてそれを標準とみなし、それから他のレコードを聴いて、違いを味わう、ということにしていたのだが、そういう中庸感覚とは無縁な、死に対峙する人間の強さ、弱さ、痛み、歓喜といった感情を全て経巡って行く。しかも、モノラルだが、音質がビシッと締まっていて、録音が良いと感じた。というより、モノラルだからこその凝集性がある。

これを聴き込んでから、ワルターのステレオ版はじめ、いろいろな録音を聞いてきたが、もう、比較ができないのである。この曲は、このレコードしか、私の脳が受け付けない。そして、幼児期から常に「死にたい」に悩まされ続けた私が、なんとか死なずに済んでまだ生きているのは、このレコードのお陰が、多少はあると思っている。

コメントを残す