レコードへの道 その9 レコードを聴いてみた

レコードを聴くために、まずはレコード・プレーヤーを入手せねばならなかった。それで、音楽評論家の高橋健太郎さんに相談した。高橋さんは、編集者として、私のマイケル・ジャクソン研究を世に出してくださった方である。家に数万枚のレコードがある、というプロ中のプロに、こういう相談をできる、というのも、救世主MJのご加護のおかげである。

最初は、ヤフオクで落札した故障したプレーヤーを、健太郎さん自ら修理して提供してくださる、というありがたいお話しであった。しかし、修繕して動かしてみると、モーターがどうも完全にイカれているようで、大きな音がするので、これはだめだ、ということで、十台くらいある手持ちのプレーヤーの入れ替え候補のものを、泰阜村の鹿肉と交換に提供していただけることになった。針とカートリッジも、健太郎さんに手持ちのものを提供してもらった。

つぎにアンプだが、これは、とりあえず、プリメインアンプの中古をヤフオクでゲットすることにしたが、意外に、高い! それでいろいろ見ていて、自動車修理屋さんがついでに出していた安い DENON の PMA-390 II をゲットした。いちおう、動作確認であったが、果たして本当に動くかどうか、ドキドキであったが、見事に作動した。

さて、レコードは、ヤフオクで、シゲティのバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタのほか、ワルターのウィーン・フィルのマーラー『交響曲 大地の歌』、オイストラフとオーマンディーのメンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、アンセルメのスイス・ロマンドのストラヴィンスキー『火の鳥』、『松村禎三の音楽』など、大昔に夢中になって聴いていたものを落札し、ついでに、どなたかのコレクションだったものらしき数十枚のセットなどを、ヤフオクで落札した。

さて、大騒ぎしてすべてを揃えて、とりあえず物置部屋のクローゼットの中にアンプとプレーヤーを置いて、即席のテスト用の純セレブスピーカーを繋いだ。とりあえず、何が起きるかわからないので、コレクションのなかに入っていた比較的重要度の低いレコードかけてみたら、無事に鳴って感激であった。

次に、そのなかにあったパブロ・カザルスのモノラルの名盤バッハの『無伴奏チェロソナタ』の第五・六巻のレコードをかけてみた。カザルスの無伴奏チェロは、高校生の頃に、ウォークマンで聴くためにカセットテープ2巻を買って、繰り返し聴いたものである。しかしその時は、オーケストラ曲が好きだったこともあり、あまりにもシブくて本当に感激することはできなかった。それから四十年以上の間に、iTunes などで何度か聴いたこともあったのだが、その印象はそれほど変わらなかった。しかし、レコードで聞くと、なぜか両耳をカザルスに掴まれて、その演奏に釘付けになってしまった。

「こんなに凄い音楽だったのか!」とびびったのだが、なぜそんなに違って聞こえたのか、まったく理解できなかった。カザルスのレコードでは、左手の指で弦を指板で押さえるときに、指を叩きつけるようにしてポコポコ鳴る音が聞こえるのが有名なのだが、テープやiTunesで聴いていた時には、それが単なる雑音にしか聞こえなかったのだが、レコードで聞くと、それが目の前でカザルスが演奏しているような生々しい臨場感として聞こえるのである。

試しに、同じシステムでiPhoneで同じ音源を聴いてみた。確かに同じ音なのだが、なにか、ヴェールが掛かったようなもどかしさを感じるのである。もしかすると、こういう古い音源は、現物のレコード以外になくて、テープやデジタル音源は、状態のいいレコードをかけてそれを録音しているのかもしれない。どなたか、そのあたりの事情をご存知であれば、教えてほしい。もしそうだとすると、レコードを聴く方が音がいいのは、当たり前である。

かくて私は、二度と戻ることのできない河を渡り、レコード沼に足を踏み入れてしまったのである。

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